41 遠くの声なんて聞かなくていい

昨年4月末の発表、そのタイトルを見た瞬間に自分の中のあらゆるなにかの時間が止まってしまう感覚があった。今でもその記事を見ると同じ感覚を自分の中に再現できるほどの絶対的な衝撃。


2016年7月10日、ひとつも心が前に進まないままこの日を迎えた。
昼夜共に最高に楽しいライブだった。でも感性がなにかに阻まれてあまり記憶がないのも事実。


自分がゆるめるモ!の何に魅力を感じたのか。
唯一無二かつ多彩な楽曲達、被ることのない各メンバー特有の声質、枠にとらわれない自由なアクトスタイル、ゆるい雰囲気とパフォーマンス時の熱量のギャップ、そして意外にもシアトリカルなアイドルらしからぬ振付の数々だった。

2015年5月の赤坂ブリッツワンマンで、最も記憶に残っているのは実は「波がない日」だったりする。
ほぼバンドでやっていたその日のライブの数少ないオケパートの曲で、「眠たいCITY vs 読書日記」「メルヘン」といったド変化球な曲達にさささのレーザー不発トラブルで和やかなゆるさが妙に面白い空気感を作り出したあとの曲がこれ。イントロの出だしからパフォーマンス、最後に音が止まるまでのすべてがめちゃくちゃカッコよかったのをよく覚えている。
振付に関して言えば一番好きかもしれないのがこの曲。波を表現したかのようなサビの振付は、6人とは思えない質量と迫力を感じて圧巻だった。

この曲に限らず、ゆるめるモ!の振付はいわゆるザ☆アイドル…ではないものが多い。個々の可愛さを押し出して輝くというよりも、ステージにいる全員でストーリーやグルーヴを組み上げひとつのものを表現する舞台芸術的なもので、楽曲の世界観にさらなる解釈やストーリーを与え、さながら二次元を三次元に、三次元を四次元にするがごとく豊かに仕立て上げていた。楽曲であそこまでやっているのにさらに振付でも攻めた方向性を打ち出していたのだ。こんなに刺激的なアイドル、他にいない。ゆるヲタになってまだ3ヵ月、ライブも3本目くらいなこのとき。ますます惹かれていった。

調べてみると振付を担当しているのはなんとメンバーのもねちゃんで、この赤坂ブリッツの後しばらく休んでしまったしなんとなく話しづらい印象があったものの、こういった表現をできる子がいったいどんな子なのだろうと無性に気になり復帰を待ってチェキを撮りに行ったほどだった。(ちなみに、持っていたイメージと違ってすさまじく気さくで話しててとても楽しい子でした)


今日になって、ふと思い出したのが1年前の新木場で観た「SWEET ESCAPE」。
本来は専用の衣装を用いた振付で、自分はこの日に初めて真の振付でパフォーマンスを観たのだった。アイドルライブでフィジカルな楽しさと観劇後のような心のざわめきを同時に感じることができたのはこの日が最後だったりする。


もねちゃんの綺麗でクセのある歌声もダンスも振り付ける作品もふと目をやると突拍子もなく面白いことをしている姿も、ちーぼうのハスキーな歌声も時折そこじゃない感のあるフェイクの妙味も掠れ声での煽りも、当時はこれがもう見れない景色だなんて頭ではわかっていても理解できるようなものじゃなかった。
なくなったものがわかるのはなくなってから。それに1年かけて、少しずつ確かめるように、今でも気付き続けているのがこんな懐古ブログを書いてしまう理由。。
そして自分でも気付かないほど長い間、あの発表を見た瞬間から時間が止まっていたようだ。本当に最近になって動き出した気がする。


新木場ライブの終演後の「サマーボカン」のMV上映。
卒業発表時の運営の姿勢は卒業する二人の存在の大きさを自覚していることを感じさせるもので、それがこの演出につながったのだと思う。愛。ゆえに、粋。

ただ、この楽曲を含む当日から先行販売されたミニアルバム「WE ARE A ROCK FESTIVAL」は正直''失敗''だったと思っている。

コンセプトアルバムとしての出来はとても良いと感じる。全体的に明るく取っつきやすい作品でもあった。
これは「広めるために」と運営が前に進むための1歩として提示したもので、残るメンバー4人が違和感を覚えながらも作り上げた作品。卒業ライブから販売が開始されたということは、その前にはレコーディングもMV撮影も済ませていたことになる。どんな気分だっただろう。



7月。雨の少ない梅雨は余韻も残さず、気温だけが上がり続け否応なく季節は真夏に切り替わる。


CD1枚で夏フェスを感じられるあのミニアルバムを、蒸し暑い日に部屋でクーラーをかけながら聴いていた。カーテンを閉めても日差しの強さには否応なく気付かされた。夏空にぴったりハマるサウンドを聴いて、クセのなくなった滑らかな歌が耳から流れ落ちてゆくのにも気付かず、なにかが抜け落ちたままの心に考える力はなくなっていた。

あのアルバムでゆるめるモ!は新しいファン層を獲得したように思う。ただメンバーはアルバムについて多くは語らず、4人体制を盛り上げている従来からのファン達の姿もなんだか無理しているように見えてしまったのが正直なところ。でもそうするしかなかったし、それが良いところだとも思った。

ただ色々と素直な自分には、あの原点回帰と銘打った10月のリキッドをお世辞にも良かったとは言えなかったし、「楽しかった!」「最高!」と言う人たちとの温度差をすごく感じてしまって、なんともいえずモヤモヤしていた。全く姿を変えたあの日の「SWEET ESCAPE」に関してはひとつのパフォーマンスとしてすごくカッコよかったけど。


「WE ARE A ROCK FESTIVAL」に関しては、もう少し間を空けて、気持ちの修復とやるべきものを見極めてからでもよかったんじゃないかと今になって思う。
幸い「ギザギザフリーダム」みたいに好きになれる曲はあって(元々ロック好きだから)、当時はただ前向きに肯定して応援することもできたけど、それが精一杯だった。(自分自身の忙しさもあり、あまり現場には行っていなかったけど)


ゆるめるモ!の新作ミニアルバム「ディスコサイケデリカ」については前回書いた通り。加えて言えば、4人になってからの路線を苦悩のなか全うしたがゆえの強かさの上で結実した、元祖ゆるめるモ!なオリジナリティを取り戻しながらも進化を見せた快作だった。
ただ、その一方で、メンバーにとって試練となりながらも今に至る土台にもなった「WE ARE A ROCK FESTIVAL」以降のロック路線で取り込んだファンとはバッティングしているんじゃないかとも思っている。
このギャップをいかにして克服するか。もう1度目指すべきはZepp DiverCity。あるいは新木場STUDIO COAST。未だ完売の報がない赤坂ブリッツの倍の規模だ。本当に大事なのはこの次の作品だろう。


ちーぼうは千歳ちの名義となり、レッツポコポコでバッチリ活躍しているという。1度だけ観たけど、合っていていいな、と思った。(あの独特の煽りが見られないのは寂しい気もするけど笑)

もねちゃんは一花寿と名を改め(以後、すいちゃん)、Hauptharmonieに加入。好きそうな衣装を着て活き活きと踊っている姿を見て嬉しくなったけど、残念ながら先日解散してしまった。
この先なにをやるのかやらないのかわからないけど、1秒でも彼女が表現の場を失っている世界を心底残念に、そして悔しくも思う。彼女の表現と声が本当に好きだった。




……ここから先はいらんこと書いてると自分で思うなー。でもたぶんここまででもだいぶ書いてるし、出てしまったものだからそのままにするよ。



「ディスコサイケデリカ」はとても良いアルバムだったけど、物足りなかったのは(4人になってからのゆるめるモ!に通して言えることだが)メンバーみんな声がさらさらし過ぎている点だった。とろみのないカレーといった感じで、かつてはそこにとろみを加えたり時にはドライカレーにしていたのはすいちゃんの透き通っていながらもクセの強い歌声や、ちーぼうの安定して上手いハスキーボイスだったりしたのだ。
さらさらのカレーもうまいもんはうまいし、4人の表現力も上がっている。特にけちょんは声だけでできることの幅が広がってきた印象がある。
それでも曲によっては、例えば「我が名とは」みたいなトラックがシンプルな曲ではとろみがほしくなってしまったりもするのが本音。逆を返せばさらさらのカレーが合う曲がまだそんなに多くないんじゃないかとも思う。(というか「よいよい」並にさささに合う曲があれ以降出てないじゃねーかと言いたい笑)


自分が思っていた以上に、好きな理由は多様でかつ建築物のように複雑ながら強固に組み上げられたものだった。それもネジや釘を使わずに頑丈に組まれた木材のような。

大きな柱がひとつふたつと抜けてしまったゆるめるモ!は、ゆっくりとじっくりと、残った柱と枠組みに自ら手を加え、時間をかけてまた新たな建造物を仕上げつつある。苦しいに決まっているのに止まらないことを決め、歩み続けていることに強さがある。

きっと6人の姿にはもう戻らないけれど、バラバラになっても6人のことは変わらず好きだし、たぶん自分もそうだって人は多いと思う。
ときには止まったりもしながら、時間がかかってもそれぞれにそれぞれの幸せや実現にちゃんと辿り着いてくれたら言うことはない。

とりあえずはさささのヘルニアが治ることと、すいちゃんにいいことがいっぱいあってほしいなぁ、と願う今日このごろ。