75 自殺の止め方はわからない

やってみてわかったけど少なくとも誰かが自殺しようとしてるとき、止めることはめちゃくちゃ難しいのだとわかった。よくわかった。

当たり前のように連絡がとりあえる時代。SNSをはじめLINE、メール、なんでもある。自分の状況を伝える手段には事欠かない。自殺しそうな人ってサインを残すものだと思う。最後の最後に気付いてほしいんだと思う。

なにに気付いてほしいのか、それはその人についてのことであればなんでもいい。死のうとしてることじゃなくたっていい。そうなるまで誰にも気付いてもらえなかった寂しさの蓄積というのがまずある。だから気付いてほしくてサインを残す。

気付いてもらってどうするのかは知らない。それで満たされて本当に悔いがなくなる人もいるかもしれないし、本当は未遂で終わりたいと心の片隅で願いながら首に縄をかける人だっていると思う。少なくとも最初から「死のう!」って思って生まれてきたり生きる人はいない。
生まれたての子供が笑うのは親や他の人間の警戒心を解くためだ。仕事で帰りが遅い父親ほど赤ちゃんが笑ってくれるのは、実のところまだ父親に対して安心できていないからだという。だから出生即生存本能発動、みたいな感じ。死ぬ気ゼロにもほどがあるのが人間本来のスタイルである。

でも人間は自殺することがある。ざっくり調べたら、アフガニスタンの内戦による年間死者数と日本の年間自殺者数はほぼ同じだった。普通に殺し合いである。なんなら精神的に追い詰めて自死させるなんて悪質極まりない。そしてこれをやる側はまったく意図していない。当たり前に生きてるだけで人を追い詰める人が少なからずいる。ヒトラーが今の日本を見たらきっと応用すると思う。

自殺する人間の心理は、完全に諦観に突入している。楽しみにしていたことだとか、家族や友達や職場に迷惑をかけるとか、そういうものが一切合切「あ、もう大丈夫です」となる。取り付く島もないとはまさにこのこと。心は枯れきって、未練すら入り込む余地はなくなっている。
他人に迷惑をかけることも厭わない。「ごめんね」で終わり。他人に迷惑をかけたところで死んだら関係ないし、それが気になるような人はなんだかんだで死ねないだろう。そんなのやり切れないからだ。身辺整理のタスクは半端じゃない。神経質の程度にもよるかもしれないが。

そうなってしまった人に対して、「生きて」とか「死なないで」とか言ってもおそらく効果はそんなにない。「ごめん、無理だわ笑」って、本当にそんなノリだ。自分の場合は。たぶんその人の抱える問題に関わる人類を皆殺しにでもしないと思いとどまってはくれないだろう。

ここまで書いて、知り合いに教えてもらったとある人のブログを読んだ。その人も同じようにドアノブで首を吊ろうとしたけど、結局怖くなり疲れてしまいやめたのだという。そこに綴られていた体の感覚はだいたい同じだった。しばらく首に感覚が残る。数日経っても、なんなら消えないのかもしれない。
その人は自分に対してあまりにストイックであるように見えた。それゆえの自己嫌悪が張り詰めて自殺に向かうパターンだろうかと思った。

自分はといえば、死なないでいられるように自分を甘やかすための努力をしていたりする。自殺しないために心掛けていることがいくつもある。だから自己嫌悪ベースでの自殺は自分はたぶん生涯しないでいられる。
こちらは外的要因に精神を追い詰められていた。逃げ道を塞がれ、数少ない心の拠り所をすべて奪い取られ、死んだほうがマシな生活を強要させられそうになっていた。なによりそれをしてきたのが一番身近な家族で、完全に心の逃げ場がなかった。袋小路で潰されている風船だ。

自殺は基本孤独に行われる。目の前にいる人が死のうとしてるのを止めないのは犯罪だし、そもそもそんな建前がなくたって他人は基本的に止めてくれる。だから独りでやる。自殺を止める方法があるとすれば、めちゃくちゃ早く異常に気付いて直接対面で止める。それしかない。遠くにいながら人を救うのはほぼ無理と言っていい。絶対無理でもないが、すごく難しい。

意識が飛びそうになった瞬間、その後の世界は完全に無だと悟った。寝ている間の意識がない状態、あのまま。だから残った世界のことをなにひとつ確認する術がない。会ったら迷いなく逝ってたはずだ。家族に返したLINEが未読のままだったのと、首に縄をかけたまま受けていた恋愛相談が気が気じゃないやつだったからやめられたのかもしれない。手元のことを一通りやり終えて、あとはもう部屋を出るだけ、ってくらい片付いてたらサクッと死んでいただろうなぁと思う。

とりあえずまだなにも問題は解決していないし、自殺モードのスイッチには手がかかったままだ。感覚は掴めたから次はもう失敗しない、確実にやれる。そんな状態。
死なないために今のところできることといえば、この自殺未遂をネタにしてフィクションに近づけてしまうことくらいだろうか。残り続ける絶対的な事実だけど。