87 雑談(ぴゅーぴるは「Only You」をやるか否か)

ぶっちゃけ、「id アイドル」と「Only You」をぴゅーぴるで解禁すると、本家への昇格・不昇格で選別される「研修生」という前提から切り離され、今の全メンバーにより構成される''1グループ''としての独立性を(ことさらに)獲得しうることになるような気がしてならない。

結成1周年、8人時代のワンマンライブは「恐るべき子供たちがやってきた!」と題されている。言うまでもなくジャン・コクトーの小説「恐るべき子供たち」をオマージュしたタイトルだが、アイドルポップスだけに留まらない攻めすぎた楽曲たちをトチ狂ったペースでリリースし、ライブハウスだけに留まらない多彩なフィールドでアナーキーなパフォーマンスを繰り広げてきた初期ゆるめるモ!を指すのに、これほど言い得て妙なフレーズはないだろう。事実、2017年4月の「過去ゆるめるモ!」との対バンにもこのフレーズは用いられた。
研修生グループであるぴゅーぴるモ!は、2016年夏に幕を閉じた6人時代までの楽曲に限定してライブ披露を行っている。「過去ゆるめるモ!」を「恐るべき子供たち」と表現する一方で、それとは区別されているのが現在のゆるめるモ!だ。すなわち、ぴゅーぴるモ!は「恐るべき子供たち」として今のところは育てられている、とか、「恐るべき子供たち」の道筋をなぞっている、と言えるのかもしれない。

恐るべき子供たち」前後の区別の根拠となるのは、やはり「Only You」、そして「id アイドル」ではないだろうか。


「Only You」はその当時、毎週数回レベルで出演していた対バンライブでほぼ毎回披露することで鍛え上げられ、アルバムツアーのファイナルとなる2015年12月のZepp DiverCityワンマンでひとつの完成を見た。この「Only You」をもってゆるめるモ!は、それまでの「恐るべき子供たち」とは別格の存在に昇華したと感じている。

翌2016年に発表された、もね・ちーぼうの卒業は、確実にそれまで動いていた時間を止めてしまうだけのインパクトがあった。「アイドルらしからぬアイドル」の''アイドル性''を確固たるものにしていたのはこの2人の存在で、この6人のバランス感でゆるめるモ!は完成されていたし、リキッドルーム赤坂ブリッツと順当にワンマンライブの規模を大きくしながらソールドアウトさせ、Zepp DiverCity公演を成功させるという絵に描いたようなステップアップ・ストーリーから、当時は「ポストでんぱ組」と目されるグループのひとつでもあったのだ。
2人の卒業当日に発表された、残る4人での新作「WE ARE A ROCK FESTIVAL」リリースに際してのインタビューからは、文字の上ながらいつまでも抜けきらない満身創痍の雰囲気が感じられた。

「それでも続けていく」という意思表示の元、4人は休む間もなくはじまった全国ツアーを駆け抜ける。歴代最多公演数のツアー、そのファイナルには再び恵比寿リキッドルームを選び、リード作品の楽曲披露もほどほどに、この日の本編ラストに歌い上げたのは「id アイドル」だった。楽曲をもって今後の自らのスタンスを示したわけだが、この楽曲の持つ意味合いが大きく動いたのはまさにこのタイミングだったと思う。2人の卒業に際し、自問自答を繰り返しながらも、続けていく道を選んだ4人の心にその歌詞がフィットしていったのだろう。楽曲の後に歌い手が当事者になった、と言い換えることもできるかもしれない。同年末のリクエストライブでは投票数1位を獲得した。


ぴゅーぴるモ!が6人時代とそれ以降で作品を区分けし披露楽曲を制限をしていることは、昇格の是非を問う「研修生」という前提特性を保持しうる条件には思えない。どちらかというと、初期特有の濃厚さをメンバーに染み込ませる目的+当時の客層へのアプローチという気がしている。出演の多い小規模ライブハウスの空気ともよく合うのだろう。が、それ以外にも少し感じていることがある。

 

現在は(あくまで6人時代までという制約はあるが)メンバーのリクエストで披露楽曲を決めているそうだ。その中で「id アイドル」はOKだが、「Only You」はまだ早いという見解が示されているとのこと。
前述のようなドラマ性を今はまだ持ち得ないぴゅーぴるモ!が「id アイドル」を歌うこと自体は、リリース当時のゆるめるモ!がそうだったように、違和感のないことなのかもしれない。今現在の楽曲そのものが持つヒストリー(ないしレガシー)を考慮せず、よりフラットにその曲の存在を見つめたなら、それは許されることなのかもしれない。絶望の縁に立ってまで続ける覚悟を歌に載せ得たのは、4人で続けていくという決断にオーバーラップさせられたからだろうが、リリース当時のゆるめるモ!が果たしてそこまでの絶望をその胸に秘めていただろうか。平たく言えば、もねちー卒業前後で「面構えが違う」のだ。

 

一方で「Only You」は「恐るべき子供たち」が次のステージに立った、その頂の先にある曲なのだと思う。新たな地平に存在する、いわばラスボスだし、手中に収めたら最終兵器だ。最初からそういうポジションにこいつはそびえ立っていたと思う。
ライブ初披露がとにかく衝撃的で、この曲がはじまるまで動くことのなかったフロアが目に見えて揺らいだのをよく覚えている。対バン相手は神聖かまってちゃんだった。
「Only You」を披露して遜色ない、と判断されるなら、それはもはや「ゆるめるモ!」たりうる実力を示したということなのではないか。ともすれば、ぴゅーぴるモ!でやることはないかもしれないし、やるとすれば別の形での独立を果たすことになるのかもしれない。
ともかく「やりたい!」「やってほしい!」でやっていい曲かというと、それは違う気がする。そういう扱いをするにはあまりにもバケモノじみている曲なのだ。


少し話は逸れるが、なぜもね・ちーぼうは卒業の道を選んだのか。卒業にあたり、続く作品の音楽性に触れ、方向性の相違を示した2人だ。
決め手としてひとつ確実にあるのは、「WE ARE A ROCK FESTIVAL」への舵取りだろう。残ったメンバーですらも疑問を持ちながらこの作品をレコーディングし、ライブで歌い続けてきた。消化するまでにかなり時間がかかったとも後のインタビューで語っている。
それまでのニューウェーブ感、アイドル界ではゆるめるモ!しかやらないようなアナーキーで変態だけどカッコいい曲……ではなく、探せばそのへんに生えまくっている邦楽ロック路線を打ち出したのがこの作品だ。

この話を何かの折に田家さんに聞いたところ、全身全霊で作り上げた「YOU ARE THE WORLD」が思いのほか世間に届かなかった挫折感がこの作品の原点なのだという。音楽マニアからの評価は高かったが、一般リスナー層からの支持が得られず、言ってしまえばメジャーフィールドに迎合する道を選んだということなのだろう。
結果として、その舵取りがすべてだったのだと思う。その先で客層は大きく入れ替わり、傍目にも迷走と映る時期が続き、「ディスコサイケデリカ」で軌道修正の兆しが見え始めるまではどこか重たいムードが漂っていたように思う。自分はこの時期のゆるめるモ!を1度嫌いになっていた。(理由は昔いろいろ書いたので割愛)

田家さんは作った音楽が良くなかったと思ったようなのだが、ファン目線で見ればあれほどまでに素晴らしいアイドル作品があるものかと未だに思っているし、どう考えたって制作・広告費の不足が届かなかった原因だろう、と思わずにはいられない。良いものだからってそうそうバズりはしないのに、シンデレラストーリーを夢見て挫折したように見える。個人的には、今の環境で同じ濃度の作品を作ったらもっと届いていくだろうと考えている。
つまるところ、自分たちが作ってきた音楽を信じられなかったことが、その当時のゆるめるモ!の罪なのだ。仲間を失い、満身創痍で迷走し、グループとしての出世ルートを見失ったのはきっとそのせいだ。届かないなら無理矢理にでも届かせるくらいの気概が求められる獣道を歩んでいたはずなのに。

それでもここまで辞めずに続けてきたことで出逢えた新しい仲間は確かな財産だ。それはぴゅーぴるモ!のメンバーたちも例外なく、現役も元も分け隔てなく。
実だけを取れば、「モイモイ」や「ナイトハイキング」のような曲はぴゅーぴるモ!にも合うだろうし、昇格を見据えての活動なら(なにねるは僅か5ヶ月で新メンバーとして迎えられたわけで)、むしろディスコグラフィの中で多勢を占める第2次4人時代以降の曲をこそやって然るべきなのだろうと思う。
それでももねちー在籍時までの楽曲限定に固執しているのは、あの当時信じられなかった楽曲たちを、もう一度信じてみようとしているからなのかもしれない。無意識かもしれないし、そもそもそんなことは考えていないだろうとも思うが。


ともあれ、現ぴゅーぴるモ!のメンバーは、自分たちが歌っている楽曲を信じてステージに立ち続けていることだろう。9/6以降ライブを観ていないが、SNSから感じ取れるモチベーションの高さはそういうところにも紐づいていると感じられる。

クリスマスになったら観に行けるのだけど、これが結構楽しみだったりする。どうなっているやら。