100 tipToe.1期のラストライブから3年が経ったので、そのひとつ前の現場の話をする

「standing on tipToe.」から3年が経った。

 

1期の集大成、すべてを詰め込んだラストライブ──

 

──なのだけど、もう少し踏み込んだ話をしてみたいと思う。

 

ラストライブについてはそこに触れた誰しもに語り尽くせぬ想いがいくらでもあるだろう。かく言う自分もまた観返した映像から蘇るものがありすぎて収まりがつかないクチだ。

それゆえ敢えて、あまり語られる機会のない少し前の時期の話をしてみようと思う。

 

メンバーそれぞれの活動期間を3年間と限定して始動したtipToe.。本来の予定だと1期生である4人はデビューから3年を迎える2019年12月でその活動を終了するはずだった。
なんせ最後の舞台はZepp DiverCityだ。おそらく都心の人気会場をキャリアの浅い事務所が土日祝の中で押さえなければならないという会場確保の都合だろうが(このあたりは運営各位がめちゃくちゃ頑張って下さったのだと思う)、結果として10月末からはじまったフェアウェルツアー(SCHOOL TRIP 2019)の最終公演が年末にまで差し掛かり、ラストライブは翌年1月にまで持ち越されることになる。

年が明け2020年、ニューイヤーフェスへの出演を最後の対バンライブとし、そこから1週間以上のブランクを空けてついに件のラストライブが開催された。

 

あくまで個人的な感覚の話にはなるが、2020年のtipToe.はアンコールのような、あるいは到達点のその先に居るような、そんな感じがしていた。
というのも、2019年を締め括ったSCHOOL TRIP 2019の最終公演がまさにtipToe.1期の集大成と言える内容だったのだ。

 

全7公演おこなわれたツアーでは、東京を除く6都市で各メンバーを個別にフィーチャーしたセットリストでライブを展開した。
そしてファイナルの東京公演は、特殊繋ぎを含むバラエティ豊かな後期の曲たちのパレードにはじまり、各楽曲のストーリー性を時間軸に沿って辿る中盤ブロック、節目節目に登場しグループが大切に歌ってきた曲たちを畳み掛ける終盤戦を経て、デビュー当初の対バンで披露していた“最初の4曲”だけで構成されたライブをSEともども再現する特別なセットリストが用意されていた。

 

本来であれば最後のはずの2019年12月、通っていたオタクの誰もが後悔しないようにとメンバーともども加速度的に駆け抜けてきたこの年最後のライブ、ツアーファイナル、そんなこれまでのtipToe.のすべてを詰め込んだ集大成と呼ぶに相応しいセットリスト。
これがラストライブだと言われてもまったくもって納得しかできない、強いて言うならハコが控えめだったくらい、それくらい充実感のある時間がそこにはあった。
本編ラストの「長い坂の途中で」の大団円感を今でも鮮明に覚えている。

 

猫も走るほど忙しい12月28日の夜。青春の一団はひとつの大きな行事をやり遂げ、各々が思い思いに余韻を噛み締めながら家路に着く。

年末商戦で賑わう街。納まらない誰かの仕事。着込むだけ着込んで出かけるカウントダウンイベント
初日の出。寝正月。あっという間に迎える仕事初め。猫はこたつで丸くなる。

静かに穏やかに流れる年末年始の時間は、それでいて終わりに向けての時間を着実に刻んでいた。

 

ツアーファイナルの数日後、年明け早々にtipToe.は1日だけライブ出演があった。
「New Year Premium Party 2020」、1月2日におこなわれたDAY 1への出演となったが、tipToe.は同日中に異例の2ステージを務めることとなる。
出演予定だったWILL-O'がメンバーのインフルエンザにより急遽出演キャンセルとなったため、その代打としてステージを守ることになったのだ。
素直に喜んで良い状況ではないにせよ、終わりを控えた当時の6人にとっては単純にライブが1本増えたことになる。運命が味方してくれたような何かを感じざるを得なかったのは確かだ。

 

この日の何が特別か。ツアーファイナル完走後最初のライブなのである。
その何が特別なのかと思われるかもしれないが、ワンマンライブやツアーは確実にメンバーとグループを成長させる。その規模が大きいほどに、やり遂げた後の成長性も非常に高いものがあるのだ。
つまり、大規模なワンマンやツアーの後には必ず“これまで以上”のライブを観ることができる。それが約束されている。これを約束と言い切れるほど6人の実力とモチベーションを信用していたことも付け加えておかねばなるまい。

 

全国ツアーを経て大きく成長した6人の姿を、ラストライブの前にアディショナルタイム的に観ることができたのは僥倖だった。
ましてやステージはZepp Tokyoラストライブと同じ規模でどれだけのライブを魅せてくれるのか楽しみでもあったし、結果として与えられた舞台のグレードに相応しい実力に成長した姿をそれぞれが魅せてくれたのだ。


先にも書いたが本来は2019年で終わりだった6人だ。ラストライブの存在は元よりあるものとカウントしていたため、2020年1月2日はまさに幻のように感じられる現場だった。

もっと言えば、この6人がZeppワンマンを終えたその先のライブも観てみたいという気持ちがあったことは否定できない。ここまで凄いのにもっと先がある……と、あり得ないことが確約された未来に思いを馳せて切なくなったりもした。


しかしながら、ツアーファイナルとラストライブの間に挟まれたこの日のライブがあったことで、最後の最後に“成長を観る”体験をさせてくれたのだ。

特別に仕込まれたワンマンライブではなく、誰もが同じ条件で出演する対バンであることが重要だった。ツアーファイナルのあとがもうラストライブという状況だったとしたら、ワンマンライブという空間にかかっている魔法を剥がした姿を観ることはできなかっただろう。それゆえに“幻”のライブなのだ。

 

お察しの通り、細かすぎてこれだからオタクは……となるやつである。

 

オタク特有の早口はこの辺にして、ライブの話をしよう。
セットリストは以下の通り。

 

firstStage.
1.morning milk(SE)
2.夏祭りの待ち合わせ(new ver.)
3.夢日和
4.Interlude(夢日和~星降る)
5.星降る夜、君とダンスを
6.特別じゃない私たちの物語

secondStage.
1.SE(僕たちは息をする)
2.僕たちは息をする
3.Cider Aquarium
4.茜
5.MC
6.The Curtain Rises
7.長い坂の途中で

会場はいずれもZepp Tokyoだ。ラストライブの会場となるZepp DiverCityと遜色ない大舞台での2本を全力で務め上げた。

 

1本目、こちらが本来用意されていたセットリストだ。
「夏祭りの待ち合わせ」はおそらくこの日初めてにして唯一披露されたバージョンだ。冒頭のアカペラ部分にピアノの伴奏が追加されていたものの、メンバーが歌いにくそうにしていた記憶がある。(配信映像を見返すとそんな風には感じなかったのだが)
イデアとして用意はしたが、ラストライブに起用する前に1度試してみようということで投入されたのではないか、と当時思った記憶がある。結果的にラストライブは通常のアカペラスタイルで披露され、このバージョンは幻となった。
「夢日和」~「星降る夜、君とダンスを」は前年のギュウ農フェスでヘッドライナーとしてメインステージのトリを務めた際に初披露された激レアかつ本気度が極めて高い繋ぎだ。もっとも盛り上がる曲ツートップをSEで繋ぐという最高火力。1期に関していえば「夢日和」がラスト以外に披露されること自体珍しかったし、なんなら対バンでの登場自体珍しかったかもしれない。さらに言えばアウトロに本来入っていないギターソロまで追加している。そうしたところも含めて攻めの気概が感じられる、1期至高の繋ぎパターンのひとつと言えるだろう。(主催公演の頻度が高めのグループなので大概はそこで披露される)
最後の「特別じゃない私たちの物語」はバックスクリーンにMVを流しながらの披露となった。いやこれ大規模なワンマンでやるやつー!!

……今にして思えばラストライブでは間奏の転調手前で一旦曲を止める演出があったため、プラン的にできない→でもエモいからやりたい、でここぞとばかりにぶち込んできたのだろうと思われる。そういうとこ、いいぞ。
この時点で考え得るもっとも強烈な対バン用セットリストだ。新作ネタも最強武器も出し惜しみせず強い順にかつ効果的にセッティングした極上の20分間である。

そもそも対バンの20分枠で十分に魅力を出し切ることは容易ではなく、グループの持ち味をしっかり堪能するならどんなグループでも30分、せめて25分は欲しいと感じる。MCまでしっかり入れてわずか20分でここまで充実感のあるライブを魅せられるのは、まさに“本物”のそれとしか言いようがない。

 

2本目はWILL-O'の代打ということで、セトリに一切の被りなし、かつ1本目からは除かれたロック色の強い楽曲を中心に構成されたステージとなった。
「僕たちは息をする」の専用SEからイントロにドラムを追加して披露されたこの日のバージョンは、SCHOOL TRIP 2019の札幌公演のオープニングとして初披露されたものだ。残りのライブも限られた中での披露となったものの非常にカッコいいアレンジであったため、この場で再び聴けたのは嬉しかった。ちなみにこのバージョンは2期のライブに受け継がれている。
その後は繋ぎがち筆頭の「Cider Aquarium」を含めすべての楽曲を繋ぎなしのストロングスタイルでぶつけに来た。
アイドル楽曲大賞に入選を果たし叙情性では比類のない珠玉のロックバラード「茜」で深く真っ直ぐな表現力を魅せつけたかと思えば、ラストイヤーの開幕を告げたtipToe.ギターロック勢の中でもトップクラスの爆発力を誇る「The Curtain Rises」を広大なフロアに叩き込み、そして披露順で言えば全楽曲中最後となり片手で数えるほども披露されていないtipToe.なりのポップ・パンクナンバー「長い坂の途中で」が最高潮に達したボルテージをそのままハッピーな空気感に転じ、高揚と多幸感に満ちた花火を打ち上げて1年の始まりを祝った。

 

そもそもこの期間にライブを観れること自体が奇跡のようなことだったのに、表情の違うそれぞれ極上のライブを観れたことが本当に嬉しかったし、もちろんツアーを終えて大きく成長したメンバーの凄みを生身で体感できたことがいかに素晴らしい体験だったか、こちらが筆舌に尽くしがたいと悶えた勢いでうっかり筆をへし折ってしまっても、結構な質量で伝わるのではないだろうか。

 

こんなに凄いライブを魅せられて、もうあとはワンマン1本だけなのか。
まったく寂しい話だ。でもここまでゴールを決めて駆け抜けてきたからこそ辿り着ける場所があるのだ。

 

tipToe.1期は当然Zeppクラスのワンマンは初めてだったし、それどころかそれまでのワンマンで1,000人以上のキャパをやったことがない。

O-WEST、渋谷クアトロ、開業したてのVeats Shibuyaなどで数々の名演を繰り広げてきたが、いずれもキャパは700人前後に留まる。

キャパ4桁台最序盤となる登竜門・リキッドルームもそのすこし先の赤坂ブリッツも挟まずに飛び級Zeppなんか大丈夫なのか、と思わないこともなかった。

もちろんその当時のメンバーの実力からすればZeppは妥当と感じる気持ちのほうが強かったが、実感を伴ってそれを確信させてくれたのは他ならぬこのNPP2020での2本のライブであった。

 

当時のライブ映像が残っている。

 


※映像のアップロードは正規のものではなく、一般のユーザーが当時の配信映像をクリップして投稿しているものであり、本来紹介すべきものではない。しかしながらラストライブ前最後の対バンライブであること、ツアーファイナル完走後最初となる貴重なステージを収めたものであること、この日だけの特殊なアレンジや演出があったこと、最後の赤衣装でのライブであったことなど、その記録的価値には看過できないものがあると判断し、あくまで無責任な一消費者と自らを貶め開き直ったうえで紹介させていただく。


自分のツイート記録を辿ると、そんなことを思いながらもこの日はめちゃくちゃ体調悪かったらしい。それでもそんな感じで素晴らしいライブを観れて帰りのバスで泣きながらTwitterやってたらしい。わかるよ。


そしてそこから9日の間が空く。来たるその日は1月11日、成人の日を含む3連休の最中。浮き足立っていた世間もそろそろけじめをつけて日常に戻ろうかと重い腰を上げ出すような頃合。オタク各位はゆっくり休んでさぁて仕事をはじめるぞ、なんて気分でいられなかったと思う。

あくまでアイドルとファンのであるにもかかわらず、「青春」と呼ぶに差し支えない経験をもたらしてくれたこの時代の終わりを迎える覚悟と向き合うことを余儀なくされていたのだ。

 

それでもその日はやって来て、チケットはもぎられ、体はフロアに吸い込まれる。
花道、本棚のセットが印象的なステージ、見当たらないシューティング機材、小粋な演出にすら思える影アナの凡ミス、折に触れどこからともなく沸くどよめき。

 

「つま先で立って最後まで」って、東京のZeppなんて過去一番のつま先立ちをしていたけれど、言葉とは裏腹に地に足着いた過去最高のパフォーマンスでtipToe.1期はフィナーレを迎えた。

 

1週間限定だそうです。ぜひ。