不毛と産毛(見えにくい)

新入社の自分と共に配属されてきた上司は37歳で初めての子供が生まれるのだという。大柄でガッシリした気の良いビジネスマン。

27歳。まだ先はあるな、と思えるのはいろいろな種類の人に出会ったから。
若いときほど人生に対して卑屈だった。今くらい前向きに、学生のころ生きられていたらどれほど人生は違っていただろう。そのぶんだけ人と違ったものを得られているかはわからないし、使いどころがない環境にいればずっと気付かない。

アイドルオタクをやることでなにか先があるのかということはそれなりの頻度で考える。推しが将来の彼女や嫁になることはないし(応援する上でのポリシーだし、それにそもそも彼女できたことないから無用の心配)、その場その場の楽しさでリフレッシュして活かされているのは確かだけど、刹那的ゆえの熱量に人は惹かれがちだということに気付くのは幸か不幸か。


5年前のアルバイト先で一目惚れした同期は今でいうと木村文乃似で、それから今に至るまでいろいろな女性に会ってはきたけど忘れられなかったのは彼女一人だった。

当時の自分は今より様々な点で終わってたし、勇気も度胸も忍耐力も粘り強さもなく、理系4年生で研究漬けだった彼女に脈がないとあっさり引き下がってしまった。卒業してからは学生時代よりも遥かに誘いに乗ってくれる雰囲気が出て驚いたのだけど、その時は自分も日々忙殺で流れてしまったのだった。

LINEでの会話も苦手で、いまひとつ気楽にやり取りができない。誰に対してもそうなのだけど、淡白だったりぎこちなかったりする。反応に不安を覚えるのは日常茶飯事。結局気の利いた返しが浮かばず返せなかったこともある。

久々にきっかけがあって彼女に連絡を取っている。当時のバイト仲間(後輩)から飲みの誘いが来て、呼びたい人を呼んでほしいと言われたので真っ先に声をかけた。
理系4年生からなぜか銀行員になってしまったという彼女は「残業ない日なんかないよ」「転職考えてる笑」という。

彼女に限らず、学生の頃明るかった友人達の多くが就職してから軒並み暗くなっていることがここ何年かの悲しいことのひとつ。理想と現実の乖離、ブラック企業、遍く理不尽、こんな日本はさっさと滅べよというくらいTwitterには溜息が溢れ、夢を煌びやかに語るのは夢追いフリーターくらい。

卒業してからフリーターへ、そして今は契約社員と来て幸い人にも恵まれている環境で、さしあたって辛いことのない自分に罪悪感を覚えてしまっている。そしていま前向きに生きられている自分がいま彼女になんと声をかけたらいいのかよくわからないでもいる。

何年も会ってないのに強く縁を求めたい唯一人の女性にとって、深いつながりはできずとも一瞬の気晴らし程度にはなりたい。という乙女心のようなものを抱きつつ、軽快に飛ばすLINEの胸のうちは車軸が外れたままなんとか線路に乗っているトロッコのようで、時折不快な金属音が聴こえるし火花も見える。

もし彼女がそう望めばドルヲタはやめるだろう。女友達と二人で飲むこともしなくなるだろう。そのくらいの思い入れがあるとはいえ、それが自分の人生なのかは神のみぞ知るところ。そうでなければいつかはキッパリと切れる瞬間が来なければならないんだし、曖昧で居続ける時間をいくら引き伸ばしても仕方がない。

とはいっても、不器用なのは彼女も同じだったりする。人付き合いに器用なほうではなかった。
なにかが凸凹なままの我々に落とし所はあるのだろうか。

でもなにかが変わるときはいつも一瞬。