103 コミュ障にもいろいろある(自分の話は無価値型、の場合)

物心ついた頃には父親も祖父もおらず、家族の集まりと言えば母・祖母・叔父夫婦という感じであった。

このうち母・祖母のコミュニケーション能力はなかなか悪質で、人が話してる最中にそれを遮ってまったく関係のない話題を話しはじめる。なんなら母に至っては興味が無い話には相槌すら打たず自分がしたい話を勝手にはじめることさえある始末だ。
叔父は慣れているのか、ある程度話を聞き終わると「それでさっきの話だけど」と何食わぬ顔で話を再開するが、自分はといえば幼少の頃から何度となくこのように話を遮られ続けてきた上に、歳の近い兄弟や親戚もおらず、また大人のする話は仕事だったり地域の知り合いの噂や悪口がほとんどのため話題に入れることもない。加えて変にプライドが高い子供だったので(今もだが)、話を聞かれないことに拗ねたと気付かれて「なになに?」とその場の全員がこちらに注目してくると、余計に何も話したくない気持ちが強まり、そのまま押し黙ることがほとんどだった。そうまでして話を聞いてもらう惨めさに晒されてまで話したいことなど何も無かった。

結果として、人格形成が完了するよりも前に「自分がする話は誰も聞いてくれないもの(=無価値)」という価値観が確立される。そしてそれゆえか、自分から人に話したいことは何も無くなってしまった。自分の話とは人に聞かせる(ほど価値のある)ものではない(と認識している)からだ。

だから昔から対面ではそんなに口数が多くないわりに、ブログやSNSでの独り言がめちゃくちゃ多い。バカみたいに多い。長い文章が好まれないことは知っているが、それでもつらつらと長ったらしい言葉を書き続けている。何の気なしに書くブログ記事やツイートは、自分にとってはもはや発汗・くしゃみ・涙・排泄といった、体内のものを体外へ排出する系の生理現象に類するものかもしれない。

人が読む場所で書きたいが、特定の誰かに向けて話したいとは思っていない。たぶん他人に話したい欲求は人並みにあるのだが、話す対象を永遠に見失っている状態である。仮に誰かに「自分には話していいよ!」と言ってもらえたとしても、特定個人に向けて話す話題とそうでない話題は脳内でオート振り分けされており、雑談に分類されるものはすべて後者に振り分けられている。振り分け時に「そんな中身のない話をしてどうする」で後者行きになるため、結果として「何を話していいかわからない」で終わってしまう。話せと言われても話せない。無理に捻り出したとしても雑談の経験値が低すぎて、自分発では安定した会話の成立がほぼほぼ無い。中身のない話をして悪いはずはないのだが、それをそつなく片付けることができない。ぎこちない雑談は気まずさを残すだけで何も生まないし、そうとわかっているものを自ら仕掛けるほど会話というものにモチベーションを持てない。

したがって一方的に喋ってくれる人の存在にはとても助けられている。仕事柄話を聞く訓練は継続的にしているので、聞いて打ち返すことなら人並みにできる。おれは人に話したいことなんか何も無いから、君が話したいことを好きなだけ聞かせてほしい、という気持ちである。
つまり人任せも甚だしく、自発的な会話がままならないということでコミュニケーション能力のレベルは控えめに言って不燃ゴミ、前向きに捉えたところでせいぜい棚の隙間に落ちて取れなくなった画鋲くらいなもの。そういうタイプの社会不適合者だ。

自分から話ができる人はすごい、おれは自分から話しはじめることができない*1のですごいなと思っていたのだけど、おそらく大半の人は自分の話を聞いてもらえる土壌で育ち、聞いてもらえると信じられているから自分から話し始めることができるのだろう。それゆえに人の話もちゃんと聞ける、当たり前のコミュニケーションが取れる人としてちゃんと育ってきた。ということに気付く。自分はというと、人の話を聞くスキルは元々持ち合わせていなかったため、仕事のために日々勉強している。

客商売、とりわけ今コールセンターという仕事を長いことしてきて、ぶっちゃけ「なんでこうお客様は自分の話を聞いてもらいたがるのだろう、傲慢じゃないか?」とわりと最近まで思っていた。話なんて聞いてもらえるものじゃないのに、なんで話を聞いてもらえること(≒自分の気持ちに寄り添ってもらえること)を当然と思っているのか、それを過剰に求めてくるのか不思議だったのだけど、それが普通であるらしい。話を聞いてもらえていないと思うと怒り出す。ああ、それ怒ることなんだ……とカルチャーショックを受ける。話を遮らず最後まで聞いて、恐れ入りますがとか申し訳ないんですがとか無闇矢鱈に謝辞を挟み込んで話していれば炎上しない。

仕事のスキルは着実に磨かれている。上司や同僚のアドバイスを受けながら人の話を聞くスキルは少しづつ高まっている。しかしそれだけ人の話を聞いても、じゃあ自分の話は誰が聞いてくれるんだろう、なんでこんな必死こいて人の話を聞こうと努めているんだろう、と自身のスキルアップに虚しさと寂寥感を覚える今日このごろの午後。

*1:やってる時はかなり気を遣っているか無茶しているかよほど相手が好きでめちゃくちゃ頑張っているかのどれか。