68 ゴキ帝の童貞キャッシュバック応募メールに綴った童貞喪失を逃したエピソード[全文]

タイトル通りなんですが結果として見事キャッシュバックをして頂きました。ゴキ帝さんありがとう!
別にそこに行けと言われたわけではないのですが、童貞限定エリアは最前なのに空いていてとても観やすかったです。

白幡さんが印象に残った一言だけを発表しあと「ご想像におまかせします!」と片付けてくれた童貞喪失を逃したエピソード、ここで全文を公開します。
人間ていうのはこうやって自分を認めていくことでかろうじて強く生きられるのさ。。


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もう何年か前になる。大学生の頃の話だ。相手は当時のバイト先の女友達。年下だが音楽の趣味が合ったりして、職場では一番仲がよかった。

彼女は当時付き合っていた彼氏と行くために、大好きなバンドのライブチケットを数ヶ月前から取っていた。とても楽しみにいたそうなのだが、ほどなくして破局してしまう。
聞けば、まぁクソ男から逃げるように別れた、という感じらしく、「行く相手がいなくなった…」とぼやいていたので「じゃあ俺が行くよ」とチケットを譲ってもらい一緒に行くことになった。

彼女とは仲は良かったけど、恋仲になるような雰囲気ではない。なんならライブの時期が近づく頃にはその子に新しい彼氏ができていた。とても優しく理解がある人だそうで、ふとした会話の中からも幸せそうな雰囲気が伝わってきて、こっちまで嬉しくなるほどだった。ちなみに彼とは面識はなかったけれど、ライブに一緒に行くことについては快諾してもらっていた。

そして迎えたライブ当日。関東はその冬一番の大雪に見舞われ、午前中からありとあらゆる交通機関が麻痺。最寄り駅まで向かうバスも運休になっていて、ライブ会場に着くのもやっとの状態だった。
ライブは一切遅れることなく定刻に開演。終演後は現場の運営スタッフさんたちがなるべく早くお客さんが帰れるようにと誘導をがんばってくれていたものの、ライブ中盤くらいの時間にはもう帰り道に使う交通機関は全滅しており、二人して家が遠かったものだから揃って帰れなくなってしまった。

会場の周りはオフィス街。一夜を越すにはあまりにもなんにもなかったので、とりあえず行けるところまで行ってから考えることにした。
夕飯を食べていなかったので、着いた先で立ち寄った店でうどんを食べて体を温める。ライブの感想を語り合ったり、仕事の話や今の彼氏の話など雑談にも花が咲いた。
既に深夜。日付は変わっている。空腹は満たされたものの、眠気とともに大雪の中での移動とライブによる疲れが二人の体に押し寄せてくる。泊まれるところを探さなければならなかった。

ゆっくり体を休めるということだけ考えればホテルがベストではある。
しかし、相手が相手だ。付き合いはじめの彼氏と幸せそうにしている彼女とホテル、というのはなんとも気まずい。どんな状況になっても手を出すつもりはないが、知られたときに後ろめたさの残る状況にはなる。部屋を分けたりして別々の寝床を確保しようとするのもそれはそれで気まずいし、屋内に入るとはいえ年下の女の子をこんな時間から一人にするわけにもいかない。
そうやって色々考えてるそばから「ちゃんと部屋が区切られててゆっくりできるところがいい」と暗にホテルに行きたそうな素振りを見せる彼女。うっかりホテル街に向かってしまわないよう足取りを牽制しつつ、通りがかったネットカフェの二人用ルームに入ることになった。

そこは完全個室ではなく、身長よりも低い板で各部屋が仕切られているだけ、物音を立てれば誰にでも聞こえてしまうような空間。その上あたりから小さく聴こえてくる会話はどれも男女のものばかり。妙な緊張が生まれる。
入ってから先に寝始めたのは、最後まで「ちゃんと仕切られたところがよかったね」と漏らしていた彼女だった。上着を着込んだり背を向けるでもなく、Tシャツ1枚で明らかに無防備。「おやすみ」と言ってものの数分で小さな寝息が聞こえはじめる。寝息がなんともいえず可愛らしい。自分の隣で女の子が寝ていて、その息づかいが聞こえてくる…。童貞の心臓にはなかなかハードな事態だった。

さらに、静かになると余計に耳に入ってくるのが周囲の音。もちろん深夜なのでどの部屋も極力音を立てないようにしているが、時折かすかに聴こえてくる女性の甘い声。
もどかしい。もどかしさがすさまじい。もどかしさのあまり彼女に背を向けて丸くなった。心臓めがけて猛スピードで全身を走り回っていた血が一点に集まりだす。
やめろ…!いま硬くなってもどうにもできないぞ…!

ふと彼女のほうを見てみる。こっちの脳内は火事現場さながらの慌ただしさなのに、相変わらず穏やかな寝息を立てて眠っている。

彼女は可愛い。クリっとした目をしていて、明るくサバサバしたムードメーカーだ。そしてその身体はというと、ほどよくむちっとしていて、胸も結構ある。つまるところ……エロい。
隣に寝そべると、仰向けになった彼女の胸元が豊かに膨らんでいるのがよくわかる。脳内の火事現場では依然として緊迫した状態が続いていた。

童貞として、そして男としても最大の試練であった。手を出すつもりは毛頭ない。そうは思っていた。思っていたが!…こんな至近距離かつ密室空間で無防備に寝てるし、そもそもホテルみたいに完全に二人っきりになれる場所に行きたがっていたし、他の部屋からはロマンポルノな空気が漂ってくるし、当然ここに彼氏はいないし、お互い黙っていればバレることはないし、彼女いない歴=年齢だし童貞だしこんなチャンスめったに巡ってこないし、なんなら据え膳食わぬは男の恥って言葉もあるし、本能を理性で抑え込むのは得てして損だ、いつもそうやって一歩踏み出せず涙を飲んでばかりだった自分を超えるチャンスが目の前にあるじゃないか!もはや彼女のほうは誘ってると思われてもしかたないだろうそういう振る舞いを散々そして今なおしてきているだろう!よーしそうだと自分に言い聞かせてまずは服の上からおっぱいだけでも揉み…いや軽く触れるだけ……いやいや待て待て起きたらどうする!いやでもその時はその時ってやつだろうか!ええいもうどうとでもなれ!手を伸ば……

……いや、でも、やっぱり待て、待つんだ。よく考えてみろ。前のクソ男と別れて、今の優しい彼氏と付き合いはじめの幸せな時期を過ごしているのを見てきた自分だ。やはり友人として彼女のことは好きだし、いま持ってる幸せを応援してあげたいと思っている。たとえバレなかろうが向こうからの誘惑があろうが、ここで手を出したら彼女に「後ろめたさ」を背負わせてしまう。自分がこのこの彼氏と面識がないからって、そんな無責任なことをしていいものだろうか。だいたい誘われてるような雰囲気だって勘違いかもしれない!これとはまた話が違うが、男友達が多いタイプの女に何度勘違いで恋をして撃沈してきたか覚えていないわけじゃないだろう!なんならこれを書いている2018年6月上旬にだってちょうどそういうことがあったばかりじゃないか!まったく成長してなくてつらいぞ自分!それはそれとして、いざ手を出して「なにしてんの…?」とかマジトーンでキレられたらその後バイト先で顔合わせるのもしんどくなる!やめとけ!
それにいま彼女が持ってる幸せに、安易かつ無責任に水を差すようなことはできない。そもそもその子の彼氏は面識がない自分と彼女がいっしょにライブに行くことを快諾してくれているような男だ。彼は彼女を心から信頼している。そしてどのように聞いているかは知らないが、同時に自分のことも信用してくれている。会ったことがないとはいえ、ここは男として通すべき筋がある。

そんなことを考えながらも疼くものは疼くしでどうにもできず悶々としていると、結局あまり眠れないまま朝になってしまった。すぐ隣から寝起きのとぼけた声で「おはよう~」と聞こえてくる。「電車動いてるんじゃない?」と呑気に声をかけてくる彼女はこの脳内闘争を知る由もないのだろう。激戦だったぞ、うん。
自分はその日バイトだったので、ぐっすり眠れた様子の彼女を部屋に残し急ぎ足で電車に乗り込んだ。大火事で慌てふためいていた脳内は、無事鎮火して静かな朝を迎えていた。

それ以来、誰ともそういう感じになることはなく、彼女もできないので童貞卒業のチャンスは依然として訪れない。今にしてみるとお互いまだ若いのだしワンナイトくらいキメてしまってもよかったかもな…と思わないこともないけど、ただやっぱり当時自分なりに誠実に生きていた証でもあるので、このとき卒業できなかったことが逆に誇らしかったりもする。いやでもそんなこと言ってるからいまだに童貞なのだろうか……答えは見つからない。


ちなみに、あの夜から数日後、彼女がなんの脈絡もなく「彼氏が男らしいって褒めてたよ!」とLINEしてきた。会ったことないんだけどなぁ。

おわり